狂気の「狛犬熱」〜三遊亭円丈『THE狛犬!コレクション』

THE 狛犬!コレクション―参道狛犬大図鑑

THE 狛犬!コレクション―参道狛犬大図鑑


決して、体系づけて、わかりやすく伝える、というタイプの本ではない。
しかし、それを補って余りある「狛犬熱」が十二分に感じられる一冊。
全国の神社・仏閣を二千数百廻って撮影した485点の撮りおろし写真は勿論、それについたコメント・解説は、作者が落語家ということもあり、全く飽きさせない。


この本は平成7年刊行ということで、20年以上前の本になる。今でこそAmazonで調べると、狛犬に注目した本は何冊か出てくるが、当時は珍しい着目点だったらしく、帯には「世紀の奇書」とあり、時代の変化を感じる。(平成29年現在で考えると、狛犬だけを扱う漫画があっても、「そんな漫画ありそう」という感想しか抱かないかもしれない。)
つまり、見向きもされなかった狛犬にここまで情熱を傾けて熱く語る、という芸にまずは注目したい。
そして、繰り返すが、1ページに1枚以上の写真につけられた熱意あふれるコメントは、こんなジャンルの本なのに一気読みできる、流れるような文章。
また、狛犬ではない狛犬(4章)、不思議な狛犬(9章)、神社仏閣・東西対抗(10章)、戦争と狛犬(12章)、シブイ狛犬(17章)などの章分けも上手く、あまり狛犬に興味が無い人でも、気になった章から読めば、次第に引き込まれていくはずだ。


ただ、難点を挙げるとすれば、やはり、あまり体系化された知識として頭に入らない⇒記憶に残りにくい、ということ。(これは、読む人の好みによるのかもしれない)
実際、他のガイド本『神社の見方』では、狛犬について割かれているのは16ページしかないが、それでも、十分に「勉強した感」がある。『狛犬コレクション』は、内容は濃いのだが、摂取効率が悪い本と言えるかもしれない。(それは、兎にも角にも「最初の狛犬本」であることの宿命ではあるのだが)

神社の見方―歴史がわかる、腑に落ちる (ポケットサライ)

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そして、一番の不満は、「狛犬地図」、もしくは市町村別索引がないこと。これは、自分が訪れてみようと思う場合には不便で、例えば、今度、東京タワーに行くけど、東京タワーの近くに面白い狛犬はあるかな…と思っても最初から読み直すしかない…。
実際、この本を読んでいる最中に、別の目的で小岩の神社を訪れる機会があったが、その近くにあった八幡神社に可愛らしい狛犬がいるとあとで読んで知り、勿体ないことをした…と悔やまれた。


あとがきには、「二冊目をぜひ出すつもり」と書いてある。刊行後20年以上経っているので、これをレベルアップした本が出ているのなら、是非読みたい、と思ったが出ていない...。
と思ったが、調べてみると、本の刊行後に発足した日本参道狛犬研究会(略称:こまけん)が存在し、今も活動を続けているとのこと。
狛研のホームページからは、会の活動自体以外にも、関係webサイトや出版物など、興味深いものがたくさんある。なかでも、神社探訪・狛犬見聞録というページは、自分が欲しかった、「市町村別検索」も備えられており、大満足です。行けなかった小岩・八幡神社の狛犬写真もありました。

行ってみたい狛犬

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