前半に飛ばした過去のレースを反省〜小出義雄『30キロ過ぎで一番速く走るマラソン』

Qちゃん(高橋尚子)の指導で有名な小出監督のマラソン本。シリーズになっていて、前作にあたる『マラソンは毎日走っても完走できない』が基礎編で、この本は実践編にあたる。
タイトルで言おうとしている「前半は抑える」ということは、これまで読んだマラソン本にも共通していたが、本当に実感している内容。しかし、自分がこれに意識し始めたのは、これらの本を読み始めてからで、昨年の味スタ(ハーフ)も黒部マラソン(フル)も今年4月の相模原マラソン(ハーフ)も、とにかく前半に稼いで、後半は気合で乗り切るタイプの走りをしていた。
実際に自分がどういう走りをしていたのか、いつも練習や大会時に使っているiPhoneアプリのログから、それぞれのレースでの1キロごとのスプリットタイムを拾ってみるとこんな感じ。

  • 2014/4/27:「マニュライフ生命わくわくチャリティラン2014」:(ハーフ)2時間5分
    • 1〜5k:5:03、5:24、5:20、5:09、5:04
    • 5〜10k:5:14、5:26、5:09、5:29、5:36
    • 10〜15k:5:35、5:19、5:37、5:50、5:43
    • 15〜GOAL:5:58、6:15、6:40、6:15、6:31、7:06

段々とペースが遅くなるのが、まさに数字に表れている。7km3週のコースだったが、特に3週目で完全にダウンしているのが分かる。
一方で、出だしはほぼキロ5分ペースとなっていて、前半部に稼いだ貯金を後半で使い切り、さらに借金している走りになっている。

  • 2014/5/25:「黒部名水マラソン」(フル):5時間20分
    • 1〜5k:6.32、5:15、5:08、5:12、5:27
    • 5〜10k:5:13、5:36、5:06、5:22、5:29
    • 10〜15k:5:18、5:39、5:55、6:00、5:42
    • 15〜20k:5:52、6:01、6:16、6:29、6:49
    • 20〜25k:6:38、6:39、6:58、11:16、6:43
    • 25〜30k:8:18、8:20、8:31、9:53、7:03
    • 30〜35k:9:51、8:25、9:51、9:11、10:26
    • 35〜GOAL:10:16、8:46、10:36、11:00、9:41、9:29、10:53

これも絵に描いたような悪例で、後半を歩いてしまったフルマラソン。24キロ付近で11:16という遅いタイムが入っているが、トイレ+おにぎりを食べたところ。このあとは足が痛くなったこともあって、心が折れて歩いてしまったのだった。
10〜15k付近はそれほどタイムが出ていないが、長い上り坂だったので、ここら辺は絶好調で走っていたことになり、やはり前半に走り過ぎてしまい、後半部は何も残らなくなっていた。

  • 2015/4/19:「東日本国際親善ハーフマラソン(相模原)」:1時間50分
    • 1〜5k:6:10、5:02、4:41、4:43、4:34
    • 5〜10k:4:48、4:37、4:57、5:04、4:55
    • 10〜15k:4:53、5:00、5:32、5:16、5:33
    • 15〜GOAL:5:28、5:39、5:19、5:37、5:13、5:44

米軍基地内を走るこのレースは、ザ殺風景なコースで、走ることに集中できたためか、とにかくペースが速い。改めて見てちょっと驚いているが、10キロまでは、均せばキロ4:45くらいという超ハイペースが出ている。
これも周回コースで、4週あったためか、3週目でガクッと疲れが出てかなりスローペースになったと思い込んでいたが、それでも16キロまでは5分台前半で、5:40を超えるペースで走っているのが最後しかない。
目標としていた2時間切りは達成したものの、小出監督推奨のレース運びとは異なるし、ギリギリでブレーキが出なかった薄氷を踏むようななレースだったといえる。


それでは、後半型の走りはどのようなペースなのか。
この本の1章では、小出監督オススメの「後半型の走り」の実例として、Qちゃんの名古屋国際女子のタイムを載せているが、確かに30〜35キロで一番速いペースとなっている。また「小出道場」で教えた市民ランナーがサブ3.5を達成したときのタイムも35〜40キロで一番速い。
このようにマラソンは「後半型」が一番速く走れると説く。これは、平均ペース型、先行型が、30キロ過ぎで失速する可能性が高いのに対して、「後半型」であれば、体力を貯金しておき一番つらい後半を速く走ることができるという理屈だ。自分の失敗体験からするとこの教えは確かにその通りで、特に黒部名水マラソンのような、「後半に地獄を見たレース」を思い返すと、とても頷ける理論だ。(ただし、フルマラソンなど長距離走るのに慣れていない人は、力が余っていても「まだこれだけか…」と心が折れてしまうので、それほど効果がないかもしれない)


2章は、まず後半型で走るための考え方が示される。これが非常に分かりやすい。曰く

  • ラソンの練習には「脚」と「心肺」の2つを鍛えるものがある。
  • 脚は長い距離を走って鍛え、心肺は短い距離を速く走って鍛える。
  • サブ4は「脚」を鍛える方を頑張るだけで達成できる(脚中心の練習でサブ4達成に必要な心肺機能はついてくる)
  • サブ3やサブ3.5達成のためには「心肺」により重点を置くため、タイムトライアルのような苦しい練習に多く取り組む必要が出てくる

このことを持って、それほど辛い練習に励まなくても達成できるサブ4については「誰でも達成できる」と言い切っている。


ただし、この章で示されるサブ4のための練習メニュー案は、なかなか厳しく、「週5日は走る」「うち3日間は負荷の高いポイント練習」ということで、この時点で自分には無理目な感じだ。(川越学も推奨は週5日だがポイント練習は2日間)
負荷をかける日の練習内容は、ビルドアップ走60分+ビルドアップ走25キロ+タイムトライアル5キロ×3回もしくは10キロ×1回など。推奨メニューでは、土曜日をタイムトライアル、日曜日をビルドアップ走25キロにしているので、平日の練習はできなくても、これなら何とか頑張れるかも。


そして、小出監督の推奨メニューで面白いのが大会3週間前からの調整練習。負荷を徐々に下げて疲れをとるというだけでなく、大会3日前に、大会当日の「重い脚」をつくるために、少し負荷のある練習をするのが良いとする。大会当日の前半に「脚が重たいなあ」と感じると自然と速く走り過ぎず、後半型の走りになる、というのがその理屈。
この本では、川内優輝を例にサブ3のための練習として、レース(フルマラソン)のはしごも挙げられているが、小出監督の自論のようだ。なお、この理論は、岩本能史の、「レース1週間前の峠走」と通じる部分があるので、上級ランナーには自明のことなのかもしれない。


その他、3章は「サブ3」を狙う人に特化した内容で、4章は、「小出道場」の教え子たちの体験記をベースにした総論。
まとめると、小出監督イズムが強く出ている本で、簡単に読み通せ、理論もしっかりしているので、自分にとって得るところの大きい本だった。上にも挙げた川越学と、岩本能史の本と合わせて読めば、三者三様の理論と練習法を組み合わせて自分に合うものにしていけそうだ。まずは、10/25の手賀沼エコマラソンハーフマラソンの自己ベストを更新し、何とか12/6の湘南国際マラソンまでに、サブ4を期待できるような「脚」を作りたい。