須川邦彦『無人島に生きる十六人』★★★★

明治31年に漁業調査船"龍睡丸"に乗り込んだ16人に起こった実話。
帯の惹き文句"椎名誠氏が選ぶ漂流記ベスト20で堂々1位"はダテじゃない。少年クラブに連載していた小説ということもあり、すんなり読めて少し感動する話。
あとがきでも椎名誠がいくつもの無人島小説を挙げているが、僕自身これまで読んだことがあるのは『十五少年漂流記』『蝿の王』『漂流教室』(?)くらいだ。ややシリアスなこれらの作品と違い、無人島に生きる〜は、全編を通して明るい。
無人島生活が始まるとき、教育係役の年長4人の一人である運転士の言う台詞に物語のエキスが詰まっている。

「島でかめ*1や魚を食べて、ただ生きていたというだけでは、アザラシとたいした違いはありません。島にいるあいだ、お互いに、日本人として立派に生きて、他日お国のためになるように、うんと勉強しましょう」

生きるか死ぬかではなく、どう生きるかを第一に無人島生活をスタートさせ、誓いどおりに無人島生活を終えた。
「現在おかれている状況は、考え方次第で、いくらでも自分を鍛える場に変えていけるのだ」という意味では、景気の悪いニュースばかりが目に付く現代の世の中に生きる自分と丸っきり無関係な話とは思えない。
とはいえ、レイチェル・カーソンセンス・オブ・ワンダー』とか、この本とか自然の素晴らしさについて書かれた本を連続して読むと、家とオフィスの往復生活はつらくなってしまうなあ。

書くのを忘れていたが、挿絵(カミガキヒロフミ)が最高。内容の雰囲気ともあっているし、ここ10年くらいを思い返してみても小説の挿絵としては最高かもしれない。

*1:作中では、主要な食糧として、正覚坊(しょうがくぼう)という呼称でアオウミガメが何度も登場する。美味しいとのこと。